朝起きるとすぐに部屋を出た。 フロントで昨日払ったデポジットが本当に返ってくるか心配だったが、問題なく返ってきた。 外に出ると、昨日の青年が客引きをしており、私に気づくと手を上げて挨拶をした。 私も手を上げて挨拶をする。 こんな何気ない生活が私は非常に好きだが、それも今日で終わり。 正確に言うと今日14時の飛行機で日本に帰るので、12時ぐらいまでしかここにいれない。 現実に戻らなければならない寂しさを胸に、残りわずかな時間を楽しむ事にした。 今日は前々から目をつけていた、佐敦道(ジョーダンロード)のちょっと先にあるお粥屋に行く事にしよう。 そこは何の変哲もないお粥屋だが、専門店だけあってすごく美味しい。 私は、お粥とテーブルにあった上げパンのような油條(ヤウテイウ)を注文すると、すぐに注文の品が運ばれてきた。 お粥は相変わらず美味いが、油條をお粥の中にいれて食べると油條の脂っこさがお粥のあっさり感に調和してすごく美味しい。 本当に香港に来て、お粥がやみつきになっちゃったわ。 店を出ると、11時をちょっと回っていた。 九龍城跡に行こうか、このまま空港に行こうか迷ったが、ちょっと早いけど空港に行く事に決めた。 実は昨日からある心配事があり、早く空港で確認した方がいいと判断したからだ。 それは、香港に入国の際に書いた出国カードをなくしてしまったのだ。 いつもなら審査官がパスポートにホッチギスで留めてくれるのだが、今回はそのまま手渡しで渡され、私も大切なものとは思わずポケットに入れてしまったら、いつのまにか行方不明になってしまったのだ。 万が一何か問題があったら、空港で時間を取ってしまい、出発の飛行機の時間に間に合わないなんて事もありえる、、どうもそのことが昨日から心配でしょうがなかった。 空港までのエアポートバスを待っていると、またもや問題。 空港まで、料金が33ドルなのに、私の財布には50ドル札しか入っていない。 香港のバスは、両替機もなく、おつりが出ないので、料金ピッタシを入れないといけないのだ。 お金をくずすこともできないまま、すぐにバスは来てしまった。 でも、何とかなるだろう。 一人で旅をしていると、いろんな事が起こりそれを自分で解決していかなければならない。 そんな事を何度も体験していると、いつのまにかちょっとやそっとの事では動じなくなってきており、このときもバスの運転手にくずしてもらうか、最悪ただで乗せてもらおうと思っていた。 バスに乗り込み、バスの運転手におつりがないかと聞くと、運転手はおつりがないと言う。 そこに後ろから欧米の女性が、料金を払おうとしていたので、一緒にまとめて払ったらどうだと運転手が提案してくれた。 ナイスアイデア。 しかし、暑さで頭が麻痺してるのか、とっさに二人あわせていくら払えばいいのか計算できなかった。 彼女が33ドル、私が今、50ドルを持っている。 いったい彼女から、いくら貰ったらいいんだ?! 悩んでいると、彼女は「一緒に払っといて。」と言い、私にお金を払い、行ってしまった。 そうこう考えて、結局払ったのは、70ドル。 バスに乗って冷静に考えたら、間違って4ドル多めに払ってしまった事に気づいた。 15分ぐらいで、空港に着くと、空港が広すぎてチャイナエアラインを探すのが大変だった。 窓口でチェックインをすると、すぐに搭乗口に入った。 パスポートを出し、出国審査を受けると、何の問題もなくOKが出た。 あれ、大丈夫だったな。 心配しちゃったよ。 荷物をチェックしてもらい、難なく手続きは終わった。 余裕を持ってきたので、出発まで2時間以上ある。 なにしようかな。 いろんな免税品店を見ても香港らしいお土産がない。 香港って、これが香港という名産物がないよな。 ビクトリアピークに行ったときも何にもなかったし。 店員が日本語で話しかけてきた。 「これ、美味しいよ。香港名物」 胡桃の入ったようなせんべいを、指差して言うので、サンプルを食べてみると、あんまり美味しくない。 「あんまりだね。」 「何か、他に名産物ない?」 店員は、パンダの絵の書かれたお菓子を指差し、 「これも香港名物。美味しいよ。でも、あなたは分からないけどね。」 ちょっと笑ってしまった。 結局その勧められたお菓子と、アワビラーメンと言う高級そうなラーメンを買う事にした。 まだまだ時間があるな。 空港のロビーに座り、滑走路を見ながら人の行き来を見ていると、香港での出来事が急に懐かしくなった。 もう一度、『深夜特急』を読もう。 いろいろなことを思い出しながら、香港での残り2時間を『深夜特急』を読んで、過ごした。 飛行機は、台北経由で日本に着いた。 2度も機内食が出たので、お腹いっぱいで飛行機を降りると、入国審査。 税関。 手続きも終わり、ロビーに出ようとすると、 「すいません。ちょっといいですか。」 税関の人が声を掛けてきた。 「どちらからの帰国ですか?」 「香港ですけど。」 「すいませんけど、パスポートと、カバンの中を見せてもらえますか?」 なんだ、私のことを不審に思ってるのか。 ちょっと笑いながら、パスポートと、カバンを見せると。 「香港にはどのような用事で行かれたんですか?」 「観光ですけど。」 「あれ、マカオにも行かれてますね。」 「はい」 さっき聞かれたときに、マカオにも行ったと言わなかったことにさらに不審に思ったのか、審査官はカバンを全部空け、カバンの隅々までチェックし出した。 「マカオにはどういった用で?」 「観光ですけど」 「観光って、どのような観光ですか?」 「はぁ、どのような観光って言われても、ただ街をぶらぶら歩いてただけですけど。」 実際、どのようなと聞かれても、ぶらぶらととしか、答えられなかった。 他にどのように答えたらいいんだろう。 審査官は、中にあった袋や、セカンドバックなど、あらゆる物をすべて調べていたが、結局何も出てこないので、あきらめたのか、「もう、いいですよ。」そう言って、私を解放してくれた。 確かに、髭面でサングラスして、怪しい感じだが、そこまで厳重チェックしなくても…。 ロビーに出ると、いつもの同じ現実がそこにはあった。 結局、香港で飲茶はできなかったけど、それは今度に取っておこう。 そう、言い訳をして、私は、家路に帰る事にした。 |
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