今日はマカオを隅々まで、観光することに決めていた。 昨日の夜に、マカオの主要な観光場所をチェックしておいたので、今日はとことん回ってやる。 しかし、まずは腹ごしらえ。 私は昨日食べたお粥がえらく気に入ってしまい、朝どうしても食べたくて、昨日食べた店にもう一度行く事にした。 本当だったら、一度行った店には面白くないのであまり何度も行かないが、今日はちょっと別の店を探す時間的な余裕もなく、探す元気もなかったので、同じ店にしてしまった。 昨日とは違ったメニューを頼み、さっと平らげると、すぐに目的地へと向かった。 予定では今日は、南からどんどんと北に向かっていく、作戦にしている。 まずは、媽閣廟(マコッミウ)と呼ばれる、マカオの名前の由来になった寺だ。 話では、ポルトガル人がはじめてこの土地に上陸したときに、地元の人にここの地名を聞くと、地元の人が間違ってここの寺の名前を言ってしまったという事らしい。 媽閣――マコッ――マコック――マコウ――マカオ マカオ。 言われてみればそうかなと思う。 赤い鳥居があり、中国風の寺で、階段を上っていくと、上の方に大きな文字が彫られた岩が奉られている。 やはり観光名所らしく、観光客も結構来ており、その観光客目当てに、マカオのお土産を売る売り子も多くいた。 本堂の中に入ると、団体旅行の客が、添乗員に説明を受けている。 あれ、日本語じゃん。 添乗員はたどたどしい日本語で、マカオの名前の由来を説明している。 先ほど私がマカオの由来を知っていたのは、この添乗員の話しを団体客に混じってタダ聞きしたからなのである。 団体客の一人が添乗員に質問をしているが、なんとなく話し方から察するに、この人たちは東北の人らしい。 女の子3人組も来ているな。 ちょっと話しかけてみるか。 「日本からの団体ですか?」 急に話しかけられビックリした女の子は、 「そうです。」 一言そう答えて、硬く口を閉じた。 あれ~。 ここからちょっとしたロマンスがあると思ったのに、それで終わり。 そうだよな。知らない土地で、急に日本語で話しかけられたから、ビックリしちゃったんだよな。 プラス思考、プラス思考。 しょうがない俺もちょっとあの占いやるかな。 さっきの添乗員の説明によると、ここにある二つの赤い月形の板を肩の高さから落とし、両方とも裏とか両方とも表になったら運が悪く、裏と表が片方づつ出ると幸運になるらしい。 しかし、チャンスは3回まであるので、その間に表と裏が出ればOKと言うわけだ。 さすが中国の人が考えそうなことだ。 幸せになるチャンスを3度もくれる。 皆に幸せになってもらいたいと言う思いが伝わってくる。 私も、赤い板を肩の高さから落としてみた。 カラン、カラン。 表と、裏。 一発で出た。 かなり運がいいな。 今日は何かいい事でもあるのかな。 まぁ、特にないんだろうけど。 次はペンニャ教会に行こう。 坂道を登り、小道に入ると、そこはヨーロッパのようなおしゃれな街並みだった。 道路は、タイルが敷き詰められ、建物も古くはなっているが、香港とは全然違う雰囲気を出している。 そう、色使いが違うのだ。 壁の色、ベランダの手すりが、カラフルに塗られ、古い割になんともいい感じなのだ。 坂道を上まで登ると、目に飛び込んできたのは、一面に広がる、マカオの街並み。 上から見るとやはりここは、ヨーロッパの雰囲気、近くにいた売り子のオジさんに写真を一枚撮ってもらい、ペンニャ教会に向かった。 何の変哲もない教会、なおかつ閉まっている。 つまんねぇな。 次に行こう、次。 えーと、次は、モンテの砦。 その前に、さっき書いた葉書を郵便局に出しに行こう。 本当は、友人やお世話になった人達に手紙を出そうと思っていたのだが、アドレス帳を持ってくるのを忘れてしまい、しょうがないのでいつも連絡をしてない実家に出す事にした。 皆さんごめんなさい。 郵便局は、いつも行く中心街の真中にある。 いつも通らない小道を通り中心街まで行くと、郵便局へと着いた。 結構立派な建物で、入り口がどこか分からない。 あれ、門が閉じてる?! 正面玄関の門が閉まっていたので、横の入り口に回ってみるが、やっぱり閉まっている。 なに~。 今日の夜には香港に戻る予定なのに、何で閉まってんねん。 どうやって葉書を出したらいいんだ。 切手も貼ってないし。 どっかに切手売ってないかな。 あのおばちゃんに聞いてみよう。 郵便局の横にいた掃除のおばちゃんに、どっかに切手がないか聞いてみた。 「すいません。手紙を出したいんですけど、切手どこかに売ってませんか?」 おばちゃんはポカーンとした顔で、こっちを見ている。 英語が通じないんだな。 私は、葉書を見せ、これ、スタンプ、送る、日本、身振り手振りで説明すると、おばちゃんは理解したらしく、ペンで書く仕草をした。 そうか、なにか書くものはあるかって言ってるんだな。 おばちゃんにボールペンを渡すと、そこから筆談が始まった。 おばちゃんが新聞紙に文字を書き、それを見て私が文字を書き質問する。 中国やらアジアに行くと、話すよりも漢字を書いた筆談が、意外に通じると聞いてはいたが、実際に字を書いてお互いの言いたい事を話し合うと、やっぱり文化の源は一緒なんだなと、なにか変な感動を覚えた。 おばちゃんが言うには、今日は土曜日だから郵便局は休みで、二日後の月曜日にならなければ郵便局は開かないとの事である。 今日は、土曜日だったのか、もう曜日の感覚がなかったわ。 私はおばちゃんにどこか別のところで切手は売ってないのかと、いろんな文字を書いて質問したが、おばちゃんには通じなかった。 やっぱりどこか自分で探さなきゃだめだな。 「ありがとう。」 おばちゃんに礼を言い、あきらめて自分で探す事にした。 本屋とか文房具屋に売ってないのかな。 あっ、あそこの露店のオジちゃんに聞いてみよう。 「おっちゃん、切手売ってない?」 おっちゃんは、無言で手を振った。 そうか、ないか。 本屋、文房具や、雑貨や、あらゆる店で聞いてみたが、どこにも置いてない。 日本と違ってマカオでは、郵便局でしか切手を置かないのかな。 どっかに売っててもいいはずなのに。 周りを見渡すと、土曜日のためか、広場には催し物用のテントが張られ、多くの人で賑わっていた。 その中に、警察のテントもあり、私は、しょうがないので警察にどこかに切手を売ってないか聞く事にした。 テントには、男の警官と、女の警官の二名がおり、女の警官は暇そうに、スポーツ新聞に目を通している。 「すいません。切手を売っている場所を知りませんか?」 女性の警官は新聞をテーブルに置き、流暢な英語で答えた、 「切手なら、前の郵便局に売ってますよ。」 「でも、さっき行ったら郵便局は閉まってたんですよ。」 「そうか、今日は土曜日だから閉まってますね。月曜日になったら開きますよ。」 「私は、今日の夜に香港に戻るので、月曜日までマカオに居れないんですよ。でも、どうしてもマカオからこの手紙を出したいんですけど。どこかに切手を売ってませんか?」 そう言うと、彼女も私の思いが通じたらしく、もう一人の警官に切手の売り場所を聞いてくれた。 二言、三言話しをすると、切手の売り場所を私に説明してくれたが、どうもその英語の意味が私には理解できなかった。 警官は何度も違う表現を使ったり、漢字を書いたりしてくれたが、私がちっとも理解しないので、ちょっとイライラしていた。 私もどうしても、警官の言うインサイドと言う単語が、変に引っかかってしまい理解できなかったが、これ以上話してもお互いによくないので、警官に礼を言い一人で何とかする事にした。 別れ際も警官は、私が理解していないのを納得いかない感じだったが、私はその場を後にした。 どうしようか。 何か言い方法はないかな。 歩きながらしばらく考えていると、ふといいアイデアが浮かんだ。 リロン!ひらめいた。 高級ホテルに行けばいいんだ。 高級ホテルなら、宿泊客の振りをして頼めば何とかしてくれるだろう。 それに切手ぐらい持ってるだろうし、最悪月曜日に出してくれるように頼めばいいし、名案だわ。 早速昨日行ったカジノがある、リスボアホテルに行ってみよう。 カジノの入り口の周りには、相変わらずタクシーがたむろしていたが、私はそれとは別のホテルの入り口を目指した。 入り口を入ると、ホテルの案内図が書いてあり、フロントはエスカレータを登った2階にあるらしい。 ホテルの中は日本で言う高級ホテルといった感じではなく、さびれた感じの雰囲気だが、フロントに行くとすぐに従業員の方が用件を聞きに来た。 そういうところは、さすが高級ホテルである。 「切手がほしいんですけど。」 そう言うと、従業員はこちらへどうぞとフロントとは違う窓口に私を案内してくれた。 窓口に居た人に葉書を渡し、送り先を言うと、切手代4ドルが必要だと言う。 私は係員に4ドルを払うと、切手を貼ってくれ、月曜日に出しておいてくれるという。 なんと親切なんだ。 自分の考えが上手くいき、ちょっといい気分になった私は、せっかくリスボアホテルに来たんだから、お礼にカジノにちょっとだけ寄る事にした。。 フロントからカジノまでは通路でつながっており、通路には高級ホテルの宿泊客を狙った売春婦がいっぱい並んでいる。 でもなんでだろうな。 売春婦は私には決して声を掛けて来ない。 私が彼女たちのタイプではないのか、それともお金を持ってなさそうに見えるのかな。 それにしても買う気はないけど、ちょっとぐらい声掛けてくれたっていいじゃん。 寂しいな。 やっぱりカジノに着くまでに誰一人として声を掛けてくれなかった。 こうなったら、カジノで大金持ちになって見返してやる。 覚えてろよ。 今日もやるのは、大小。 カジノ場を一周して、大か小が連続して出ている場を探した。 なぜかと言うと昨日カジノをやり、連続して出ている目は、そのまま連続して出やすいという自分なりの法則を見出していたからだ。 すると、一番奥の場で、大、大、大、大、大と、大が五回連続で出ていた。 ここにするか。 当然、大に全財産を投入。 現金1000ドルを大に投げ入れると、ふたが開くのを待った。 ブザーが鳴り、ふたが開かれると、そこには、3・4・5の大。 現金1000ドルと、1000ドルコインが一枚帰ってきた。 ラッキー。 やっぱり運がついてるな。 もう一勝負するか。 次も大に、1000ドルコインを掛けると、案の定大が出て儲けが2000ドルになった。 マカオに来たときよりお金が増えたよ。 もうこのぐらいで、勝ち逃げしよう。 なんでも引き際が肝心。 2000ドルのコインを香港ドルに変えると、人目を気にしながらお金を財布に入れた。 しかし、両替後も売春婦は私に見向きもしてくれなかった。 これでやっと、懐も温かくなったし、モンテの砦に行く事ができる。 モンテの砦はいつも行く、中央広場の裏手にあり、昔イエスズ会がオランダ軍と戦った時の大砲の跡があるらしい。 行ってみると今は公園になっており、公園の横の教会では結婚式が行われていた。 入口から結婚式を覗いていると、おばさんが私を教会の中に招き入れてくれた。 教会式は、このように通りかかった誰もが、結婚する二人を気軽に祝福することができ、日本の身内だけのかしこまった雰囲気とは違い、単純に幸せを皆で祝福するというその単純なスタンスが、私は非常に好きである。 香港の結婚式を見ていてちょっと面白いなと思ったのは、これから二人で幸せに生きていくというのを調印式と同じで、お互いにサインするという契約社会の一面がなんとも新鮮で面白く感じた。 時間がそれほどなかったので、おばさんに祝福の言葉を言い、公園に向かった。 緑の多い公園の中に入っていくと、多くの人が日陰で将棋などを楽しんでいる。 どれが砦なんだろう。 公園の中を歩き回ると、見晴台のような場所があり、そこにいたおばさんに、ここがモンテの砦かと聞いてみると、おばさんはコクリとうなずいた。 おばさんが言うんだから、多分そうなんだろう。 いたって普通の高台に上りあまり感動もしないまま、次に行く事にした。 次は、すぐ近くにある聖ポール天主堂跡。 歩いていけば5分もかからない。 近くだからすぐに着くと思ったら、考えが甘かった。 何度も、何度も同じ所をぐるぐる回り、どうしても天主堂跡に着くことができない。 標識も出ていたので、その通り進んで行ったが、どこで間違うのかまた同じ場所に出てきてしまう。 そんな事を3度も繰り返すと、体力と時間を奪われてしまい、もう天主堂跡に行く気も起こらなくなり、結局あきらめてしまった。 残す目的地は、あと二ヶ所。 ギアの灯台と、中国との国境。 なんとなくちょっと義務のような感じになってきたが、何とか歩いてギアの灯台をまわり、国境までたどり着くことができた。 国境には塀があり、マカオ側の塀、中国側の塀、その間は50メートルぐらい空いていて、高台に立つと塀越しに中国の様子を見ることができる。 塀の向こうでもこちらと変わらず生活をしてる人がいるんだろうな。 不思議な感じである。 しかし、もっと不思議だったのは、国境を陸路で超えることである。 まるで買い物から帰るかのように、多くの人が普通に国境を越えていく。 日本だと国境を越えるというと飛行機の乗って越えるイメージしかないため、陸路によって海外に行く光景はなんとも不思議に見えてしまう。 国境ゲートの横には孫中山記念公園という場所があり、多くの若者たちがバーベキューなどをして楽しんでいた。 その横の広場で、見た感じ知恵遅れの少年が空にめがけてボールを投げて遊んでいる。 ポーンと投げては、落ちてくるボールを眺め、またポーンと投げる。 そんな事を何度も何度も続けている。 それも非常に楽しそうに。 幸せって何だろう。 ちょっとその少年がうらやましく感じた。 もうそろそろ帰ろう。 バスに乗ると、今日5時間以上かけて歩いた道を、バスはいとも簡単に15分で走り抜けた。 バスの窓から街の風景を見ていると、苦労して歩いた道が流れていき目的地が近づいてくるのが分かった。 しかし、私はさっきからあることが気になってしょうがなかったのだ。 それは、バスの降り方。 降りる人は降りる時にベルを鳴らしているが、どこを見渡してもそのボタンが見当たらない。 さっきから降りる人の行動をずっと見ているが、分からない。 共通する点は、なんだかみんな天井を触っているような気がする。 天井に何かあるのかな。 天井を触る手を注意深く見ていると、なんとなく天井にある黒いものを触っている。 多分あれを触ればベルが鳴るんだな。 バスの降り方も分かり、安心していると、研究成果を発揮するまでもなく、終点についてしまった。 終点、聖ポール天主堂前。 今日昼に何度も迷った道がそこにはあった。 中心街に向かって歩いていると、あれ?!。 あれは。 ライトアップされた建造物に引き込まれていくと、そこには今日あれだけ捜しても見つからなかった、聖ポール天主堂跡がライトに照らされ、美しくそびえたっている。 火事でほとんどの部分を失ってしまったが、唯一残された壁面には、キリストの少年像、聖母マリア像、ザビエル像と、17世紀の歴史をその壁面に刻み込んでおり、暗闇の中に神秘的な存在感を出している。 近くにいた人に、写真を撮ってもらい、しばらく壁面を眺めていると、横にあった高台が気になった。 なぜだか分からないが、無性に気になり、上ってみると、海に向かって大砲がいくつも設置してある。 もしかしてこれが、モンテの砦ではないか。 偶然通りかかってみることができたことに、運命みたいなものを感じた私は、神様に感謝した。 まずい。 19時30分。 香港行きのフェリーの最終が、20時に迫り、急いで預かってもらっていたかばんを取りにホテルに向かった。 カバンの預かり書をなくしてしまい、ちょっと戸惑ったが、かばんについていた南京錠を持っていた鍵で開けると、受付のおばさんも安心してかばんを渡してくれた。 19時40分。 20分あれば何とか間に合うだろう。 しかし、リスボアホテル横を通ったときには、残り時間は10分を切っていた。 まずい。 心の中で、焦りと諦めが交差していたが、私は最後まで走った。 マカオに着いたときに乗ったぺディキャブのオジさんの「中心街まで歩いたら、1時間はかかるよ。」という言葉が頭をよぎり、オジさんもあながち嘘をついていたわけでもなかったんだなと思い、一生懸命走った。 しかし、港に着いたときには最終便は10分前に出航した後だった。 しょうがない、お金はあるから、他の交通手段を使えば香港に帰れるだろう。 懐の温かい私は、いかにも日本人。 ジャパンマネー。 チケット売り場に行き、電光掲示板を見ると、HKF(香港フェリー)21:15発。 何の事はない、夜遅くまで香港行きのフェリーは出ていたのだ。 船に揺られ香港に着くと、なんとなく故郷に帰ってきたような懐かしさを覚えた。 今回は、重慶大厦(チョンギンマンション)ではなく、美麗都大厦に泊まろうかな。 歩道を歩いていると、いつものように客引きが声を掛けてくる。 無視するがどこまでも付いて来る。 しょうがないから、付いていく。 今日は、いろいろ歩きすぎて、すぐに眠りたい気分だったので、インド人青年の言うがままに付いて行った。 美麗都大厦の3階のリリーゲストハウス。 受付に入ると愛想の悪い女の人が、インド人の青年と話をした。 青年が言うには今日はもう、シングルルームは空いてないのでファミリールームに泊まれと言うのだ。 ファミリールームで、200ドル。 冗談じゃない、今日は本当に寝るだけで十分なのに、そんなに広い部屋は必要ない。 「シングルルームがいい。」 受付の対応にちょっと腹を立て、そう言い残し、フロントを出ると、すぐに青年が私を追って出てきた。 「190ドルにするよ。」 「いいよ。他を探すから。」 「170ドル、これでどうだ。」 そんな熱心な青年の態度に、170ドルの中には多分青年の取り分も含まれているが、チップ代わりだと思えばいいかと、そこに泊まることに決めた。 再びフロントに戻ると、受付の女性は書類を出し、これにサインをして、ルームキーのデポジットとして100ドルを払えと言う。 ホントに腹立つな、普通だったらそのまま出てしまうが、青年の顔を立てると思い、書類に目を通し、部屋代とデポジット合わせて270ドルを払った。 ルームキーを受け取ると、青年は部屋まで案内してくれ、テレビやシャワーの使い方を説明してくれた。 「おやすみ」 青年は一通り説明すると、部屋を出ていった。 今日は本当に歩いたな。 シャワーを浴びると、4つあるベットを一人で使いゆっくりと寝る事にした。 香港も残すところ、あと1日。 |
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