朝8時いつものように起きて、朝食にお粥でも食べ、9時ぐらいにマカオに行く船に乗れば、10時過ぎには、マカオに着く。 そしたら、マカオをゆっくり見て回ることが出来る。 そんな計画を立てながら、荷造りをしていた。 相変わらず、荷物は大した物を持ってきてないのですぐに済んだ。 リュックを担ぎ、鍵を返しに3階のフロントに行くと、おばさんがいつものように机の前に座っていた。 「3日間ありがとう」 おばさんに礼を言うと、重慶大厦(チョンギンマンション)を1階まで降りた。 痛っ。 コンタクトが、裏返しだ。 涙を流しながら、コンタクトをはずしていると、 「日本の方ですか?」 白いTシャツに、ジーンズ姿の、30ぐらいの日本人が話しかけてきた。 とっさに「イエス」と答えてしまった自分に、ちょっと照れながら、 「そうです」と、日本語で答え直した。 彼は、私が日本人だと分かると、昔の友達に街でばったり会ったかのようにうれしそうな笑顔を見せた。 「香港にはどの位いるんですか?」そう聞かれ、 「4日目です。」と、答えると、 彼は自分が行った観光名所、お店や食べ物の話をいろいろとしてくれた。 話によると彼は、証券マンで、まとまった休みが取れたので、香港にギャンブル旅行に来たらしい。 毎日、競馬場に足を運び、あさってには、マカオのカジノに行くと言う。 「私も今から、マカオに行くんですよ。」そう言うと、 彼は、すまなそうに、 「急いでるのに、ごめんなさいね。」と謝った。 私は、コンタクトを付け、彼に、 「また、マカオで会ったときには」と言い、別れた。 重慶大厦の前には、いつものように、あの客引きの親父がいたが、親父は、私を見ても、何食わぬ顔で、新しい旅行客を探している。 これからも親父は何人もの人をだますんだろうな。 時計を見ると、もう10時になろうとしている。 やばい。 予定より大幅に遅れている。 歩いていけば10分ぐらいで行けるから、急いで行こう。 お粥を食べるのはあきらめ、マックで、朝マックを買って、急いで港に行く事にした。 しかし、やっぱり迷ってしまい、着いたときには、10時30分を回っていた。 マカオ行きの船が出る、中港城(チャイナホンコンセンター)に着くには着いたが、どこから船が出るのか分からない。 中港城は、何の変哲もないビルで、船が出そうなところが全然見当たらないのだ。 上に行ったり、下に行ったり、全フロアを見てみたが、どこにもない。 しょうがなく、係員に聞いてみると、1階の奥のエスカレータを指差し、あれで2階に行けと言う。 港に行くには、乗るエスカレータが別だったのだ。 教えてもらったエスカレータで、2階に行くと、すぐにチケット売り場に向かった。 10時40分発の船がある。 これに乗ろう。 窓口で、行きのチケットを買うと、お姉さんが、往復チケットの方が安くていいよと親切に教えてくれた。 マカオまで往復で、180ドル。 安い。 すぐにチケットを買い、お姉さんに礼を言うと、船乗り場に向かった。 入り口で、チケットを見せると、チケットきりのオジさんはそこのロビーで待ってなさいと言う。 素直に従いしばらく待ったが、オジさんは何も言ってくれる気配がない。 あれ。 オジさんが何も言ってくれないのを不思議に思い、チケットを見ると、出航時間 11時40分。 10時だと思っていたが、よく見たら、チケットには11時と書いてある。 あと1時間ぐらいあるじゃん。 わざわざ走ってくることなかったわ。 ロビーを見渡すと、私以外にもマカオに向かう人が、思い思いに船を待っている。 目をつぶって眠っている人、グループで楽しそうに話している人。 私も、読みかけの本を読みながら、時間をつぶしていると、すぐに時間が過ぎ、船乗り場へのゲートが開いた。 ゲートをくぐると、空港と同じように、入国審査があった。 船で気軽に行けるから、香港かと思っていたが、考えてみると、マカオはポルトガル領であり、入国するにはパスポートが必要なのだ。 しかし、香港からも行き来する人が多いのか、いつものような、出国審査の重々しさはなく、なんとなく、適当と言うか、フランクな感じがした。 多分本当は、きちっと審査してるのだろうが・・・。 出国審査も終わり、中の待合室で少し待たされると、すぐに、船へと案内された。 船の中は、がらがらで、一応指定席になっていたが、私は、窓際の席に座り、外の風景を眺めることにした。 船は、時間通りに中港城を出発し、予定では、マカオに13時10分に到着する。 当初計画していたよりは大幅に遅れてしまったが、13時ごろなら、それから宿を探しても、十分時間がある。 あわただしかったけど、やっと落ち着けるな。 船では、一番前のモニターで映画が上映されていたが、揺れが激しく気分が悪くなり、私はそれどころではなかった。 やっぱりこんな時は、寝るが一番。 せっかく窓際に座ったが、結局寝ることにした。 マカオまでは、あっという間だった。 初めてのマカオは、雨の出迎えだったが、香港よりはすごしやすい気候である。 全然海外に来た感じがしないな。 リュックを背負い、船を降り、マカオに上陸した。 税関でちょっと呼び止められたが、日本人だと分かると、すぐに通してくれ、やっぱり日本人はまじめだと思われてるんだなと、実感した。 これからどうするか。 とりあえずは街まで歩かないとな。 港を出ると、すぐにぺディキャブと呼ばれる、人力三輪車の親父が話しかけてきた。 「どこに行くんだい」 私は、いつものように無視して歩きつづけた。 しかし、案の定親父はどこまでも着いてくる。 「乗っていきなよ。」 「街まで歩いたら、一時間はかかるよ。」 マカオは非常に狭い島であり、ここから町まで一時間もかかるはずがないことは知っていた。 しかし、外は思ったより雨が降っており、どうしようか、ちょっと考え、 「いくら?」とりあえず聞いてみると、 親父は、ポケットから紙切れを一枚出して私に見せた。 そこには、日本語で、観光15分70ドル、30分100ドル、1時間150ドルと書いてあった。 「街までだったら、いくら?」 「大体15分ぐらいだから、70ドルだね。」 高いな。 確か、他の交通手段ならもっと安く行けるはずだけどな。 でも親父も雨で大変そうだし、しょうがない乗ってやるか。 「50ドルにして」 やっぱり習慣のように値切ると、親父が渋い顔をしていたので、 「それじゃ、歩いていくわ」そう言って、その場から歩き出した。 親父は慌てて、私を追いかけてきて、 「分かった、分かった、50ドルでいいよ」と、言った。 旅をしていると、よくあるやり取りである。 商談も成立し、親父と一緒に人力車の方に歩いていくと、 人力車仲間の「いくらで、成立したの?」という問いに、 親父は自慢下に、「50ドルだよ」と答えた。 その時、ちょっとぼられたかなっと言う気はしたが、そんな光景が私には、なんだかほほえましく思えた。 親父は、私を人力車の後ろに乗せ、傘をさしながら自転車をこぎだした。 やはり仕事にしているだけあり、親父のふくらはぎは、筋肉でしまっており、そのふくらはぎをじっと眺めながら、人力車に乗っていると、人力車は、海沿いの道を通り、リスボアホテルを抜け、街の中心地へと入っていった。 土地感をつかもうと、必死に道を覚えようとしていたが、覚えることもなく、すぐに繁華街に着いてしまった。 人力車を降り、親父に50ドルを払うと、私はホテルを探すために、メインロードを歩いた。 メインロードの周りには、結構高いビルが立ち並んでいる。 さすが、CITIBANK。ここにもあるよ。 ちょっと軍資金を補給するか。 CITIBANKの中に入り、店内を見まわしたが、ATMがない。 ちょっと店内で、きょろきょろしていると、すぐに行員の人が来て、 「いかがいたしましたか?」と、丁寧に聞いてきた。 「お金を下ろしたんですけど、ATMはないんですか?」 「ATMは、ここにはないんで、香港銀行のATMを利用してください。」そう言って、店の外にまで出て、丁寧に香港銀行までの道のりを説明してくれた。 ここでも、私は、CITIBANKの行員の態度のよさに感心した。 行員に教えられた通り歩いていくと、10分ぐらいで香港銀行についた。 ちょっと、ATMの使い方に戸惑いはしたが、軍資金500ドルをおろし、香港で目星を付けておいたホテル、ロンドンホテルを探すことにした。 確か、地図によると、海の近くにあったはず。 それにしても、マカオの道路標識は全然分からないね。 漢字と、ポルトガル語で書かれているため、私には、何がなんだか全然わからず、ちっとも道の名前を覚えることができない。 中心街からちょっと離れ、海まで出ると、ここは昔ながらの漁港のように、静かで、のんびりとした雰囲気が漂っていた。 海は緑色で汚いが、波は穏やかだった。 しばらく歩くと、マカオ・パレスという、古い鳥居のようなものが眼に入ってきた。 こ、これは。 深夜特急で出てきた、庶民派の船上カジノではないか。 後で行ってみよう。 海沿いの道を5分ぐらいまっすぐ進み、小道に入ってすぐのところに、ロンドンホテルがあった。 ホテルに入ると、フロントの人に聞くまでもなく、平日の料金は、激安の160ドルという看板が置いてあった。 これは安い。 マカオはリゾート地のため、最低でも一泊300ドルはするだろうと思っていた私は、フロントで空き部屋を確認すると、値切ることもせずここに泊まることをすぐに決めてしまった。 おばさんは、まだチェックインの時間ではないので、3時になったらもう一度、ここに来なさいと言う。 それじゃ、ちょっと一時間ばかし、街をうろつくか。 おばさんに荷物を預かってもらうと、すぐに街に出た。 まずは、さっき見た船上カジノに行ってみよう。 あそこは、観光客相手のカジノではなく、地元の人が買い物帰りのついでによるようなカジノとか言ってたな。 マカオ・パレス 澳門皇宮娯楽地と書いてある鳥居の前に来たが、どうにも入り口が見つからない、というよりも、鎖で門が閉まってる。 それにカジノらしき船がないな。 門も古いし、なくなっちゃったのかな。 門の前でうろうろしていたが、どこにも見当たらないので、あきらめる事にした。 どこかにご飯でも食べに行こう。 今日は朝マックを食べてから、何も食べてないからお腹減ったよ。 とりあえずは、中心街だな。 中心街につくと、私は地図を購入する為、本屋を探した。 多分商店街に行けば、あるだろう。 本屋を探していると、近くに出ていた露店に地図が置いてあるのを発見。 お腹が減っていたので、あまり見もせず早速15ドルで、地図を買った。 近くにあった料理屋に入ると、メニューには朝食べそこなったお粥がある。 船酔いで、胃の調子が悪いから、これにしよう。 お粥と、なんだか分からないがもう一品頼むと、先ほど買った地図を広げてみた。 失敗した。 地図を開いてみると、地元用の地図なのか、書いてある文字が、漢字とポルトガル語、それに細かい路地が書いてなく、大まかな、誰かが手書きで書いたような地図だった。 これじゃ、ちょっと分かりにくいよな。 大丈夫かな。 でも、ある程度分かるからいいか。 そう自分を無理やり納得させると、現在地を地図で確認した。 大体、島の真中ぐらいの位置だな。 なるほど、ホテルはここか。 地図を見ていると、すぐにお粥と菜っ葉のようなものが運ばれてきた。 菜っ葉はただごま油で炒めただけのようなもので、それなりに美味しかった。 しかし、お粥が想像以上に美味しい。 この塩加減といい、お米のとろみ具合といい、なんとも絶妙の味。 今までにこんなに美味しいお粥に巡り会って事はないというぐらいの美味しさ。 それに、胃にやさしい感じで、非常に食べやすかった。 腹八分ぐらいで、満足すると、また地図を広げこれからの計画を考えた。 もうそろそろ3時になるから、ホテルに戻るか。 ホテルに戻ると、パスポートを見せ、お金を払い、部屋に案内してもらった。 部屋入るとゆっくり休むまもなく、バッグを置くと、すぐに出陣。 向かうは、アジア最大のカジノ場、リスボアホテル。 さっきご飯を食べた中心街の先にある。 中心街まで行くと、まるで私を待ち構えているようにリスボアホテルが遠くにそびえたって見えた。 ホテルへ向かう道をまっすぐ歩いていくと、次第に緊張感が高まり、絶対に勝ってやるという意気込みがふつふつと沸いてくる。 大金持ちになったらどうしようかな。 ホテルの前には、カジノで勝った人を待ち構えたタクシーの群れがあり、なんだか甘いものに群がる蟻のようだったが、これもカジノという場所の運命と思い、群れを掻き分け戦場に乗り込んだ。 カジノに入る前には、持ち物検査が行われ、危険物、カメラなどの持ち込みをチェックされ、なんともカジノという場の物々しさを感じた。 飛行機に乗る前によくあるゲートをくぐると、ブザーが鳴り、私は警備員に止められた。 しかし、私はそれが何で鳴ったのか大体見当がついていた。 恐らく、財布につけた、チェーンのせいだろう。 実は、空港でも同じようにブザーが鳴り、警備員に止められていたのだ。 チェーンをはずしてもう一度ゲートを通ってみると、今度は何の反応もなく、通ることが出来た。 やっぱりな。 チェーンを受け取り、カジノに入ると、想像していたものとちょっと違った感じがした。 私のイメージの中では、カジノというと、ラスベガスのようなきらびやかで、豪華なイメージがあり、賭け金も一回で、何十、何百万というお金が飛び交っているんだろうと思っていた。 しかし、ここは広さは確かに広いが、きらびやかな装飾はなく、さびれた感じで、1回の賭け金も、50ドル~500ドルぐらいと、それほど派手な賭け方はされておらず、地元の雰囲気を漂わせた、地味な感じだった。 ギャンブルの種類としては、スロットマシーン、ルーレット、ブラックジャック、バカラ、大小といろいろあったが、私は、他の物には眼もくれず大小の席へと直行した。 大小とは、チンチロリンみたいな感じで、ディーラーが3つのサイコロを振り、出た目の合計が、大なのか小なのか当てるゲームで、4~11なら「小」、12~17なら「大」、ゾロ目が出たら、ディーラーの総取りになるというルールで非常に分かりやすいギャンブルである。 これも深夜特急によると、ディーラーが出る目をある程度操作することができ、大や小を連続的に出し、場を盛り上げ、賭け金が増えてきたところで、ゾロメを出したりとか、ディーラーがサイコロを振る音の違いによって、大小を見分けることができたなどの話が載っていた。 私も耳を凝らし何度も何度もサイコロを振る音を聞いたみたが、どうにも違いが分からない。 とりあえず賭けてみることにするか。 ディーラーがサイコロを振り終わり、私は、50ドルを大に賭けると、それがあっけないくらいに当たった。 次は小かな。 今度は小に100ドルを賭けた。 賭ける時間の終了を知らせるブザーが鳴り、ふたが開けられると、サイコロの目は、大。 あいた~、外れたよ。 こんなことを何回か続けていると、財布の中身もみるみる減っていき、なんとなく賭けることにも飽きてきて、思考能力が落ちてきた。 もうこうなったら、有り金全部賭けよう。 なくなったらなくなったで、それでいいや。 一発勝負だ。 カシャン、カシャン、カシャン。 サイコロが振られ、皆が思い思いに賭け出した。 小、大、大、大、と来ている。 次は、小かな。大かな。 でも、この感じだと多分また大が出るんじゃないかな。 決心して大に全財産をかけると、ふたが開けられるのを待った。 ブザーが鳴り、開かれたサイコロは、 3・5・6。 大であった。 一気に500ドルを手に入れた。 よし、もう一勝負。 カシャン、カシャン、カシャン。 次も大に、全財産を賭けた。 結果は、4・5・5の大。 1000ドルになって返ってきたが、何の感情もない。 香港ドルのせいか、いくらお金をかけても全然緊張せず、むしろゲームでおもちゃのお金をかけているのと変わらない感覚で、ちっとも面白くない。 それに本当に勝ち負けが、運のみという感じで、どうにも私の感覚には合わない。 損もしなかったし、ギャンブルはもういいや。 換金所に行くと、香港ドルと、マカオ通貨の二つがあり、周りには売春婦がその金目当てにたむろしている。 私は香港ドルに換金してもらい、カジノを後にした。 幸運の女神は、私に微笑んではくれたが、私のタイプではなかった。 |
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