朝8時、目覚し時計の音に起こされた。 昨日の騒動のせいか、または、方向音痴のせいか、体中だるく、私は、起きあがることが出来ずベッドの中でごろごろしていた。 外からは雨の音が聞こえてくる。 今日は、雨か。 あんまり出歩きたくないな。 傘もないしね。 体も疲れてるし、もうちょっと寝るか。 なんだかんだ寝るための理由をつけると、私は心置きなくもう一度寝ることにした。 それから何時間が経ったのだろう、空腹に目を覚まし、時計を見ると、針は11時30分を指している。 まだ眠いな。 もうちょっと寝ようかな、でも、寝てばっかりいたら、何しに来たのか分からないよな。 香港まで来て、寝続けたっていうのも面白いけど、それじゃ、もったいなさ過ぎる。 しょうがないから、とりあえず外にくらい出るか。 身支度をして部屋を出ると、おばさんがゲストハウスの掃除をしていた。 「おはよう」 「今日、雨が降っていて、嫌ですね。」と、話しかけると、 おばさんは英語が分からないようで、何か広東語で言っていた。 「ちょっと出かけてくるね。」 そう言って、外に出ると、 外は、雨がポツポツと降っている。 しかし、香港は看板が多いせいか、その下を通れば、それほど濡れることなく歩くことが出来る。 何をしようかな。 今日は特に行きたい所もないしな。 本当は、昨日地図を見て、九龍城跡とか、バードガーデンとか、いろいろ行こうと決めていたのだが、朝、気分が乗らなかったため、すべてやめてしまった。 どうせ目的のある旅じゃないから、いいや。 行き当たりばったり。 行く当てもなく、彌敦道(ネイザンロード)を佐敦(ジョーダン)の方に歩いていくと、マックが目に入った。 関東の人は、マック、関西の人だと、マクド。 私は、いろいろな国に行くと、絶対に一度は、マックに行くようにしている。 マックでも各国によってちょっとづつ違いがあり、タイでは、ハンバーガーが若干大きく、飲み物はセルフサービスになっており、変わったところで、サムライバーガーというのがあった。 ご想像の通り、サムライバーガーとは、日本で言う照り焼きバーガーのことである。 香港のマックは、特に変わったところもなく、今はスパイシーフライドポテトといって、袋の中にポテトと、スパイシーな粉を入れ、自分で振ってから食べるというものがお勧めになっていた。 私は、ハンバーガーとマックシェークを頼み、席に着いた。 マックに来たのは、いつもの習慣という他に、安く時間をつぶすことが出来るからという事もある。 今日は、日本から持ってきた、『深夜特急』をもう一度読み返すことにしよう。 当然持ってきたのは、パート1の香港編である。 この本を読んだきっかけは、私がタイに旅行したときに、いろんなバックパッカーの人と話しをすると、決まってこの『深夜特急』という名前が出てきて、『深夜特急』とはいったいなんなだと、日本に帰ってからすぐに本屋に駆け込んで読んだ本である。 その時には、香港の街の風景を自分なりにいろいろイメージして、読んでいたが、実際に香港の街を歩いてから読むと、文章の一つ一つが、すごくリアルに映像として飛び込んできた。 ペニンシュラホテル、YMCA、スターフェリー。 すべてが自分の知っている所で、時代は違うが、共に同じ空間を共有している、不思議な親近感を覚えた。 それにしても、香港のマックシェークは甘すぎる。 かなりの甘党の私だが、それでも甘いと思ってしまう。 香港の人は、これが普通なのだろうか。 そんな事を思いながら、外を見ると、雨もかなり小ぶりになり、行き交う人も増えている。 そろそろ外に出るかな。 香港では、食べた後トレーはテーブルに置いたままにしておいていいのだが、いつもの習慣で、ごみ箱にごみを捨て、トレーを片付けた。 外に出てみたが、どこかに行く当てもなく、ぶらぶら歩いた。 かなりだるいな~。 昨日の疲れがまだ残ってるわ。 やっぱりちょっと休もう。 浮浪者のような男の人たちと一緒に、通りの端の方に座ることにした。 街の中でただボーっと人を見ていると結構面白い。 太ってる人、背の高い人、おしゃれな人、急いでる人、観光客、いろんな人がいる。 街を歩いてる時も思ったのだが、香港の女の人の後姿は、非常にかわいく感じる。 しかし、後姿を見て、かわいいな~と思い、はや歩きで前に回ってみると、おばさんだったという事が結構あった。 香港は、おばさんと若い人の区別を、ファッションで見分けることが出来ないのである。 日本だと、後姿だけで、可愛い子と、そうでない子の区別をつけるのは難しいが、若い人と、おばさんの区別ぐらいはつく。 しかし、香港では、おばさんが非常に若い格好をしている為、後姿だけでは判断することが出来ない。 後姿だけなら、すべてが私のタイプなのである。 そんなことを考えながら、ボーっと人の流れを見ているが、やはり皆私が珍しいのか、この人は何してるんだと言った目で、私を見ている。 気にしない、気にしない。 そうだ、確かこの辺に、牛乳プリンの美味しい店があったな。 行ってみるか。 佐敦道を左に曲がり、3本目の路地。 義順牛乃公司。 なんと読むのか分からないが、多分牛乳屋だろう。 店に入り、おばさんに「ミルクプリンひとつ」と言うと。 理解できなかったのか、「ミルク?」と聞き返してきた。 「いや。ミルクのプリン。」言い直すが、それでも通じなかったらしく、 おばさんは、観光客用の英語の書いてあるメニューを持ってきて、 「どれ?」と、言ってきた。 メニューを見ると、ミルクはあっていたが、プリンというのが、英語では違うらしい。 メニューに写真も貼ってあったので、「これ」と指を差すと、おばさんは「OK]と言って、すぐに、白いお茶碗ぐらいの大きさのものを持ってきた。 これが、牛乳プリンか。 何の変哲もない、想像通りのものだったが、食べてみると、素朴な味で、甘さも程よく、疲れた体に、優しい感じがした。 牛乳プリンを食べ終わり、レジでお金を払っていると、私は、香港に着てから、一度もチップをあげていない事に気づいた。 香港は、昔イギリス領で、イギリスの風潮が色濃く残っており、食事などをしたときには、レジで返されたおつりを、チップとしてトレイに少し残す、というのが風習らしい。 しかし、私は、一度もそんな事をした、ためしがない。 店の人から、礼儀知らずと思われているのだろうか。 観光客だから大丈夫か。 まぁ、そんな事たいして気にしてないから、いいんだけど。 店を出て、また歩き出したが、やっぱり体が疲れている。 今日は、ナイトマーケットまで、部屋でゆっくりしよう。 部屋に帰ると、ベッドに横になり、さっきの続きを読み出したが、疲れていたせいか私は、いつのまにか夢の中へと引き込まれていった。 やっぱり次に起きたのも、お腹が減ったからだった。 人間、空腹には、勝てない。 時間も8時だし、食事がてら、ナイトマーケットに行くか。 街は、すっかり暗くなっているが、雨は相変わらずである。 テンプルストリート、廟街(ミウガイ)に来ると、昼間とは違い、道には所狭しと、露天商が出ている。 時計や、Tシャツ、CDV、大人のおもちゃ、ありとあらゆる物が出ているが、私の興味を引くものはなかった。 一通り見てから、もうひとつの露店街、女人街(ノンヤンガイ)に行く事にした。 彌敦道をまっすぐ歩いて、油麻地(ヤウマテイ)を少し過ぎたところ、ここは、女物の衣類や、雑貨の店が、ぎっしりと並んでいるが、別にそれが目当てではない。 実はこの通り沿いに、美味しい釜飯屋があるのだ。 店は、露天に隠れていて、見つけにくいが、女人街を入ってすぐなので、何とか見つけることが出来た。 店に入って、メニューを見たが、どれが釜飯なのか見当もつかず、 店員に、紙に『麻仔飯(釜飯)』と書いて見せた。 店員が、「麻婆豆腐ですか?」と聞いてきたので、何度かいろんな文字を書いてみたが、通じず、しびれを切らした店員はどこかへ行ってしまった。 あららら、どうするか。 しばらくすると、店員は、中から店長らしき人を連れて戻ってきた。 店長に改めて、『麻仔飯(釜飯)』という文字を見せると、店長は理解したらしく、別の釜飯が載ったメニューを持ってきた。 案の定、見ても分からないので、真中ぐらいのものを差すことにした。 15分ぐらい本を読んで待っていると、先ほどの店長が、釜飯を持ってきてくれた。 ふたを開け、私の前で、たれを掛けると、 「二分待ったら、食べなさい。分かった?」 そう言い、私の顔を見つめた。 「分かった、分かった」私が答えると、 「ごゆくりと」そう言って、去っていった。 3分間出来あがるのを待ち、ふたを開けると、それは、豚肉のようなものが乗っている釜飯だった。 上手い。 まぁ、お腹が減っているのもあるが、醤油だれが、効いていて、お焦げの所が非常に美味しい。 すぐに平らげると、店を後にした。 ちょっと散歩して、早いけど、部屋に帰ろう。 街を歩いていても、私が、2日前に日本から来たとは、誰も気にしていないし、分からない。 国境って意味があるのだろうか? 私はどこにいても変わらない。 部屋に帰り、テレビをつけると、こっちでも、トレンディードラマのような、『新探偵物語2』というのが、やっていた。 やっぱり変わらないんだな。 日本も、香港も。 今日も、香港に来たら絶対にしようと思っていた、飲茶をしなかったが、最終日にすればいいか。 明日は、マカオ。 どんな国なんだろう。 期待に胸を膨らませ、今日は早く寝ることにした。 |
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